水澄美恵子の人形

このウェブサイトでは、人形作家の水澄美恵子(みなずみ・みえこ)による「木造校舎の子どもたち」シリーズをご紹介します。

 近年、昭和の戦前戦後のノスタルジーをテーマにした映画や展覧会が各地で好評を博しております。
 働き盛りの世代が自分の青少年の頃を振り返る手がかりとして、また、若い世代にとってはレトロな文化を知る手がかりとして、年代を越えて往時の生活や文化を味わいなおしているように見受けられます。
 ここにご紹介する人形作家、水澄美恵子も1947年生まれです。
 水澄美恵子の人形における卓越した技術と想像力は、江戸の町人文化、童話、今話題の球体関節人形などのテーマにいたるまで、それぞれに豊かな表現を生み出してきました。昨今、水澄が取り組んでいるのが、昭和三十年代の小学生をテーマとしたシリーズ作品です。
 記憶の底に置き忘れていたかのような小物の数々が、泣いたり笑ったりしている人形の表情とともに、木造校舎に響いていた子供達のざわめきとともに見事に蘇ってきます。

 大きくて重たかった給食当番のアルミのやかん、体育の授業しか頭にない男の子、運動会の前のせわせわした感じ、喧嘩して泣かされて悔し泣きに泣いた帰り道などなど、どうしてこれだけの生き生きとした子ども達の表情がひとりの作者の脳裏に収まっているのか、そのイメージの豊かさにはうならされるばかりです。
 さらに、そのイメージを蘇らせる小物や布づかいの技術の見事さにも目を見張ります。これには布という素材の引力と、人形が愛でるべきサイズの大きさに作られていることが深く影響しています。(人形のサイズは25センチくらいです。)

 生き生きとした描写には、作者のウィットとユーモアに満ちた創意と、子供達に対するあたたかな観察眼が感じられるもので、これを見る人は必ずや、思わず頬をゆるめ、ひととき往きし時への感慨に耽ることでしょう。

 水澄美恵子は、特に子どもや江戸町人文化の情景描写で国内外から高い評価を得ており、展示は常に国内外ともに賞賛を浴びています。このウェブサイトは、その作品を一人でも多くの方に楽しんでいただくための目的につくられました。願わくば全国巡回展示で実物をご覧頂ける日がくることを望みます。
 ご覧頂いた方より、ご感想をお寄せ頂ければ幸いに存じます。

2009年1月

羽関チエコ
(元ドール・フォーラム・ジャパン編集発行人)